黒麹の源流は沖縄にあった
古来より泡盛づくりに欠かせない貴重な資源であった。
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泡盛づくりには欠かせない黒麹
ひと口に「麹菌」といっても、その種類はさまざま。タイや中国の東南アジアではクモノスカビやケカビなどを使い、日本では古くから黄麹菌を使っていました。泡盛は伝統的に「黒麹菌」を使っているのが大きな特徴です。そして、黒麹菌のみを使って酒造りを行ってきたところは沖縄だけと言われています。
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当時から変わらず守られてきた
上の写真は培養した黒麹菌ですが、こうした現在の麹菌は、戦後焼け野原でほとんど消滅した黒麹を、与那国島から採取し、培養して現在まで脈々と受け継がれ、大切に守られてきました。
黒麹菌を使った酒造りは古くから、沖縄各地で行われていたと言われていますが、この黒麹菌の存在が研究者によって明らかにされたのはそれほど古くなく、琉球王国が沖縄県となった明治時代のこと。1904(明治34)年、乾環氏、宇佐美桂一郎氏が泡盛の製造工程を調査し、発見した黒麹菌にウサミ菌、イヌイ菌という名を付けて発表したのがきっかけだと言われています。
明治時代後半になると、それまで黄麹菌を使っていた鹿児島の焼酎メーカーも、腐敗に強い黒麹菌を使って酒造りを行うようになり、黒麹菌の使用は九州にも広がっていきます。その後、黒麹菌の突然変異である白麹菌が発見され、九州以北の焼酎造りには、白麹菌が使われるようになりました。現在、九州の焼酎メーカーが原点回帰という謳い文句で、黒麹菌を使った商品なども生産していますが、その源流は、沖縄にあると言われています。
沖繩の黒麹菌の特徴
日本では古くから黄麹菌が酒造りに使われてきたのに対し、沖縄だけが黒麹菌が使われてきたのは、その環境にあったようです。
温暖で多湿な沖縄の気候風土は黒麹が育つ最適な環境でもあります。
黒麹菌は酒の製造過程でクエン酸を大量に生成するため、ほかの麹菌に比べてもろみ(米麹に水と酵母を加えてアルコール発酵させる段階)の酸度を高くすることができ、雑菌による腐敗を抑えることができるという大きな特徴があります。温暖多湿の沖縄は、さまざまな菌にとっても繁殖しやすい環境でもあります。
このような気候の沖縄においてお酒を造る際に、黒麹菌が最も適していることを沖縄の先人たちは長い経験の中で習得していったのかもしれない。
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この黒麹菌の強さは、黄麹菌を使って造られる日本酒の製造工程と比較すればより明らかです。黄麹菌を使った酒造りでは乳酸菌が生成されますが、酸度が低いため、ときには乳酸菌を添加して雑菌の繁殖を防ぎます。しかし、黒麹菌の出してくれるクエン酸には及ばないので、日本酒造りは雑菌の少ない冬の時期に、それも作業場には基本的に関係者以外入れず、徹底した雑菌対策を施したうえで行われています。
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泡盛を年中造ることができるのはやはり黒麹菌の力によるところも大きいと言えるのではないでしょうか。また、黒麹菌は、原料である穀物のでんぷん質を糖化する酵素の力がとても強いことも特徴です。つまり、お酒そのものの収量を増やしてくれる菌でもあるのです。さらに、黒麹菌を使った酒ならではの香りや風味も楽しめます。泡盛が泡盛らしい味わいを出すために、黒麹菌は大きな役割を担っているのです。